1,10mSv以下でも発がんリスクが増加

 ●10mSv以下でも発がんリスクが増加

深川市立病院 松崎道幸

 

 

2,原子力規制委員会の「帰還に向けた考え方」について

●原子力規制委員会の「帰還に向けた考え方についての4つの問題点
 (英文

 

 

3,福島県18歳以下児童の甲状腺エコー検査について

●広島県での出張甲状腺エコー検査結果について

 

 

4,JCO臨界事故時の健診と比較した福島甲状腺検査

●JCO事故後の健康管理から見た福島被災者支援法の異常さ

 

 

 

3●広島県での出張甲状腺エコー検査結果について


反核医師の会常任世話人・青木克明

 

 原発事故後、広島に移住された方もしくは保養に来られた方からの依頼に応えて、20124月から135月までの間に、8回の出張甲状腺エコー検査を行い、315名の方に検査を体験していただきました。GEのLogic-Eというポータブルエコーをショルダーバックにいれて持参し、画像はHDに記録しておき、翌日プリントアウトして所見用紙とともに家族ごとに郵送しています。広島共立病院、福島生協病院のMSWが同行して、相談活動、問診記録、検査の補助などをしております。 

 年齢と結果を記録している278人(10才以下121人、11ー1820人、19才以上137人 福島88人、東日本153人 広島等37人)について福島方式で判定してみました。

 

 A1 210人 A2 57人 B 7人 C 4

 

 C判定はいずれも乳頭癌疑い  成人女性3人(福島2人、仙台1人)成人男性1人(福島)です。福島の女性2人は手術終了し乳頭がんと確定しました。

 全体では福島の方が27% 福島以外の東日本の方が63%、広島のかたが9%ですので、福島の割合が高いのが気になります。

 検査当初は小さなのう胞は「異常なし」としていましたので、A1が多くなっています。

 B判定は腺腫様甲状腺腺腫が4名、慢性甲状腺炎が3名です。

  悪性の可能性のある結節と悪性の可能性はないのう胞をまとめて1つの判定区分にすることには私は賛成できません。

 A2は「たとえ悪性であっても手遅れにはならんから次回検診まで検査する必要はない」という検査してやる側からの区分けです。受診者のもとにはA1,A2といった判定区分のみが報告され、それが1mmののう胞なのか4mmの結節なのかはわかりません。画像が欲しければ戸籍謄本をとって情報開示請求を行い、料金を振り込んでからでないと入手できない現状には怒りを感じます。 

 ちなみに わたしは乳腺甲状腺超音波医学会の甲状腺超音波診断ガイドブックをもとに、以下の6区分で結果報告書つくり画像とともに郵送しています。小さなのう胞は「異常ありません」に含めて、「小さなのう胞があったが普通にあることで心配ない。このための経過観察は必要ありません」と付記しています。

 

1、異常ありません

2、のう胞という液体のたまりがあります。超音波による経過観察をお勧めします

3、5mm以下の腫瘤があります。超音波による経過観察をお勧めします。

4、20mm以下の腫瘤がありますが、悪性所見はないので超音波による経過観察をお勧めします。

5、5mmから20mmの腫瘤を認めます。悪性の可能性がありますので、甲状腺外科専門医を受診してください。

6、20mm以上の腫瘤がありますので甲状腺外科専門医を受診してください。

 

 

 

 

4●JCO事故後の健康管理から見た福島被災者支援法の異常さ

反核茨城医療人の会世話人・大前比呂思

 

 福島事故後の被災者支援法の対象範囲について、福島県内の一部に限りたい政府の意向に対し、多くの自治体から反対のコメントが寄せられる異例の事態となった。実は、福島事故に対する現在の政府の対応は、かつて国内であった原子力関連施設での事故対応の原則とも、かけはなれている。

 

 1999年、茨城県東海村でおきたジェーシーオー社(JCO)の臨界事故では、事故原因の作業に直接従事していたJCO社員2人が、医療スタッフの献身的努力にも関わらず、高線量被ばくのため不幸な転帰をたどった。一方、この事故での被ばくは、他のJCO社員や救急隊員だけでなく、施設周辺の住民にも広く及び、原子力被害補償法が適応された。

 

 住民の被ばくに対し茨城県は、原子力安全委員会の検討にもとづき、健康管理委員会を設置し、無料で健康診断、心のケアを行うこととした。その事業は、自治体による住民健診に血液検査(血球数、白血球分画)や生化学検査(総コレステロール)を加えるもので、JCO事故後の国から県への交付金を利用し、年に1回の茨城県による健診事業として、今に至るまで継続されている。対象者は、国際的に定められた公衆の線量限度や自然放射線などを考慮し、①事故により価された線量が1mSvを超える場合 ②事故時の避難要請区域内の住民 とされ、一般的な成人健診、がん検診に近い形式で運営されてきた。

 

 一方、現在福島第1原発の事故後に行われている、福島県民健康調査では、福島県内の小児甲状腺疾患のみを対象とすることが、最初から既成事実のように語られた。今回の事故により、南東北・北関東から東京都、千葉県に至る広い範囲の住民が1mSv以上の過剰被ばくを受けた。JCO事故後の健診の原則から考えると、被災者支援法の対象範囲は、当然これらの地域を含んでもおかしくはない。また、放射線の健康影響が、発癌や血管障害など、成人に多い疾患であることを考えれば、広く成人も含む健診が望ましいのも当然である。このことは、小児の甲状腺検診の充実とは、別の課題で、どちらかを軽視してよいという問題ではない。

 

 空間線量1.3mSv/3ヶ月(5.2msSv/年)が管理された成人しか勤務できない「放射線管理区域」の基準なのは、医療関係者にはよく知られている。福島事故後は、人口の多い都市の一部まで、一度にこの「管理区域」の基準となったこともあってか、「避難・居住」区域選定の公的見解にこの基準が生かされることはなかった。しかし、1997年にやはり東海村のアスファルト固化施設でおきた火災事故では、事故後の「管理区域」拡大と、事故終息後の「管理区域」縮小・原状復帰が、基準に基づいて順次行われていった。

 

 

 このように、福島事故後の様々な対応については、これまでの国内の原子力施設の事故対応で、曲がりなりにも示されてきた幾つかの原則が最初から無視されていると言わざるを得ない。事故の規模が違うのだから、補償が膨大になるから、といった理由で、過去の対応の経験を最初から参考にしないとすれば、それはあまりに怠慢である。また、意図的に無視しているとすれば、たいへん悪質な対応と言わざるを得ない。